8月15日〜16日

8月15日
7:40登攀開始〜17:30 The Block着〜20:15fix終了
21P目:赤澤。エルキャプスパイアーと壁は少し離れているだけなので目の前のクラックにはすぐに取り付ける。C1の後スクイズチムニー5.9.しょっぱいかなと思ったが意外にそうでもなかった。ワイドクラックの登りにはかなり慣れた気がする。
22P目:赤澤。クラックを直上後、5.5の登りで安定したビレイ点へ。ティッカのヘドラが電池と共に落ちていた。誰かが上で落としたのだろう。
23P目:赤澤。5.12aのクラックを直上後、左にトラバースし、残置ハーケンが多数あるリスを登る。この残置ハーケンが今にも抜けそうなヤツがいくつかあり、肝を冷やす。カムはもちろんナッツも決められそうに無いので、なるべく衝撃を加えないようにハーケン達に立ちこんでいく。以前船山さんに教えていただいたように、ただハーケンにカラビナをつけてアブミにたち込むのではなく、ハーケンがねじれて抜けにくくなるようにシュリンゲで工夫して立ちこむ。前にもあったが、蜘蛛の巣が張っていた。僕らが今シーズン初めてこのサラテを登るのかもしれない。長いピッチであった。
24P目:高橋。このピッチは最も悪いピッチで濡れている、と、トポには書いてある。しかもエイドのグレードはC2である。C1+なら今までもあったがC2とはどんな登りを要求されるのであろうか…。ひでさんはかなり苦戦しつつも登りきる。(テンションしたりユマールで登り返したりしていた)
25P目:今日のビヴィであるThe Blockという岩の塊の下から上へ登る。まだ早い時間で着けたので26P目にfixを張ることにする。一応バックロープをつけて27P目も時間が許せばfixしたい。
26P目:フレークをC2で登った後、再びC2をひでさんが行く。めちゃくちゃ苦戦している…。急に「うあっ!」という声と共にロープに衝撃が走る。フォールしたようだ。そんなに難しいのかC2は…。その後も2回フォールしやっと突破。テンションのコールで振り子トラバースし、C1を登る。2時間以上かかってfix。ひでさん曰く「どこに決めりゃーいいんだよ!」「絶対外れるよ〜と思いながら乗ったよ。だってそれしかないんだもん。」らしい。もちろん時間が無いので今日はここまで。
The Blockは少々傾いており、セルフビレイでずり落ちるのをストップさせながら寝た。ひでさんはずり落ちて下の岩で止まっていた。ここはエビ虫がいなかったがアリがいた。エルキャプにはいろいろの生き物がいる。エルキャプスパイアーにはねずみがいたし。満点の星空がビバークの醍醐味だ、と思うしかない。

8月16日
7:10登攀開始〜19:30登攀終了
今日めちゃくちゃ頑張って登ればTOPOUTできると思っていたが考えは甘かった。ここから先はC2が多くまさに真の核心と言えよう。気を引き締めて登る。
27P目:赤澤。C2と書いてあるのですごい慎重に登ったが簡単だ。おかしいな、これがC2なわけないと思ってたら出た。こいつか。ビレイ点のボルトまであと5mくらいというところで、どうカムやナッツを決めたらいいのか分からない岩の凹みが出現。四角形の凹みとスイートポテトの型のような凹みがあるのだが、カムを縦にも横にも決められない。ナッツも試すがほぼ効いてなさそう…。ここでタロンというフックを使ってみる。右のフェースにわずかな2mmくらいの凸があり、ここにタロンを引っ掛けて体重を乗せてみる。するとぺりっと薄焼きせんべいのように剥がれてしまった。だめだ。何分か考えた後、大き目のナッツを何とか決めて立ちこむ。次のスイートポテトの凹みにも同じようにでかナッツを決めて立ちこむ。黒ひげ危機一髪をやっているようだ。次に、ナッツやカムはムリそうだがタロンが安心して決まる凹みがあったので、すかさずフッキング。なるほどこうやって使うのか。つぎになんとか青エイリアンが決まりそうな凹み。ただ入れて下に引くだけでは外れてしまうが、一度入れてから、凹みがパラレルに走る方向に沿って引いて、カムを馴染ませてから下に引くと外れないようだ。こうしてやっとボルト二本の終了点に到着。どうやらC2は体重を乗せるだけしかできないようなエイドクライミングを要求されるようだ。
28P目:赤澤。トポを見ると、5.12 or C2。またC2かよと思って見ると、ナッツの残置が大量にある。こいつらのおかげで楽に突破できた。だがこういう状況はフリークライミングの精神に反するものだし、本来C2で苦労して登るものが楽に登れてしまうことになる。良くないと思うが、その一方で安心している自分がいた。

29P目:高橋。The Roofというすんごいルーフを超えて行く。ところで今日は最悪な日だ。なぜなら26P目終了点以来ずっとハンギングビレイなのだ。つまり垂直な壁でビレイしているってことである。少々腰が痛くなるだけだと思う人もいるだろうが、そういう問題ではない。猛烈に大便がしたいのである。ハンギングビレイではとてもじゃないが大便をするどころか、ホールバックからうんこセットを取り出すこともできない。「さっきしてもけば…」後悔の念、そして肛門へのどうしようもない圧迫感と戦いながらビレイしていた。ルーフを登るひでさんの姿はかっこよく、まるで空を飛んでるみたいだった。本人も「ワタシ、空を飛んでる!」と言っていた。解除のコールの後ユマーリング。空中ユマーリングとなるのでザックの重みで体がひっくり返りそうになる。つら過ぎる。しかもくるくる回るので気持ち悪い…。ルーフ下のプロテクションの回収が最も困難を極めた。残置シュリンゲにカラビナをかけてとっているのだが、このビナを回収するには一瞬体重をロープから抜かないといけない。アブミを残置シュリンゲにかけ、それに乗ってロープから体重を抜き、カラビナを回収。だが今度はこのアブミを回収しなければ。アブミのカラビナを残置シュリンゲからとればいいだけなのだが、どうしてもできない。横のクラックにジャミングして一瞬体を浮かそうとするが無理だ。ザックが重過ぎる。このままではアブミを残置してしまう。思い立った僕は首にかけていたナイフを取り出し、残置シュリンゲを切断した。と、同時にぐいーん!と後ろに振られ、上から「大丈夫か!?」とひでさんの声がした。その後、もうザックを背負いながらは無理だと判断し、ひでさんにザックも荷揚げしてもらう。そして何とかフォロー終了。初めて登攀中にナイフを使った…。
30P目:高橋。サラテの目玉であるSalathe Headwallに突入。クラックが一本美しく走っている。フリーでのグレードは5.13a〜b。平山ユージが、サラテオンサイトトライで初フォールした場所である。エイドではカムがばしばし決まったらしく、ひでさんが問題なくリード。
31P目:高橋。5.13b or C2である。ピッチの長さとしては45’しかないのだが、やはり難しいらしくかなりの時間を要した。2回ほどナッツが外れたみたいで「ガキッ!!」と音を立てていた。ちなみに僕はそろそろ便意が限界に達してくる。ようやく解除のコール。セルフビレイをはずし、下半身への圧迫が無くなった瞬間、今度は強烈な尿意が襲ってくる。必死の思い出ユマーリングし、フリーで今日のビヴィであるLong Ledgeへトラバース(ちなみにこの時出かかっていた…)。ついた直後に用を足す。ビックウォールでは朝に用を足すことが重要だと思い知った。ひでさんお疲れ様でした。ロングレッジは座るくらいの幅しかないが、横になると上手い具合に体がフィットする良いビヴィだ。虫もいない。
32P目:時間があるのでfixする。レッジの奥にあるクラックを直上後、残置ハーケンにランナーをとる。その後、フリーで左上し、ビレイポイントのレッジまで行くのだが、このフリーの部分が恐ろしく難しかった。垂壁を左上し、3級程度の登りをするのだが、この垂壁が明らかに5.8どころではないのである(トポには5.8と書いてある)。最初にカム類のついたギアスリングを背負ったまま行こうとするが絶対無理だと判断し、とりあえずハーケンにデポ。行ったり来たりしてムーブを探るが厳しい。クラックやリスは無く、唯一の凹み部分にも何も決められない。「こりゃフリーで行くしかないな…。」意を決して突っ込む。
まず両手を斜めったカチに、左足を滑りそうなスタンスに置き、右足をアブミから離す。右足をこりゃまた滑りそうなスタンスに置き、左手を左上の極小カチに。右足を上げ、小さい突起に乗せて体を上げ、右手を頭の上のカチに。この時点で落ちる寸前。ガバに見えた奥のホールドをデッドポイントでとると、それはガバではなくスローパーだった。耐え切れずフォールし、ハーケンで止まる。もう一度トライするも再びフォール。3度目、左の極小カチの上にヒールフックを無理やり決め、体を上げ、さっきより更に奥にあるガバを半分取る。汗でぬめりながらも這い上がり上に出た。やった!!よっしゃー!!雄たけびを上げながら3級を登りビレイ点へ。Fixし、戻る。一体どこが5.8だ…?少なくとも5.10a以上に感じた。今日やっといてよかった。残すは後3ピッチだ。しかも残りの1ピッチはただの5.6の登りだから実質2ピッチだろう。良くここまで来たなぁ、と思いつつ飯を食べ就寝。これがラストのビバークだ。水と食料はかなり余っているので贅沢に飲み食いする。
写真:The Roofを越えるひでさん