ヨセミテにっき4

7/27
昨日頑張った甲斐あって、一日短縮できた。今日はCAMPⅥまでの6ピッチをこなせばOKだと思うと気が楽だ。朝起きると、ささくれやらスリ傷やらで、手が痛すぎて動かせない…。シュラフをしまうのも辛い。ゾンビの手みたいだ。比較的ゆっくり準備して6:30登攀開始。
21P目:高橋
GREAT ROOFの根本まで。圧倒的なルーフが上にかぶさっている。あれか…。
22P目:高橋
NOSE第二の見せ場であるGREAT ROOF。巨大なルーフを右にトラバースして抜ける。ここぞといわんばかりに写真とムービーを撮りまくる。

23P目:高橋
Pancake Flakeというパンケーキのようなフレークを行く。風がどんどん強くなり、ビレイしている僕は早く終わってくれと願っていた。
24P目:赤澤
CAMPⅥまでのピッチ。体を入れにくい凹角を登り、少しのフェイスを経てビレイ点へ。ビバークポイントはみんな小便臭い。
25P目:赤澤
長いピッチ。5.7のフリーを登り、ナッツを多用する小さいクラックを登り、Glowering Spotという壁の角に出来た凹みまで。非常にビレイしやすい。

26P目:赤澤
ここもまた150‘と長いピッチ。デカイカムを駆使してフリーも交えつつ登り、CAMPⅥに到着。かなり良いビヴィだ。しかもサーマレストが二枚残置してあるではないか!おまけにピーナッツが大量に入ったボトルもある。いらないけど。まだ時間があるので次のピッチをFIXすることにした。
27P目:高橋
Changing Cornersを含むピッチ。かの有名なリン・ヒルがNOSEをフリー化した際に、最も困難を極め、何度もトライしてようやく完登したというルートだ。小指くらいのクラックが走るほぼ直角な凹角が永遠と続く。左右の壁には何もスタンスは無い、ように見える。リン・ヒルはここを曲芸のようなムーブで抜けたらしい。そのグレードは5.14クラスとか…。エイドとはいえ、ひでさんはやはり苦戦し、惜しくも1回フォール。かなりの距離を落ちたようだ。日没の8:30が近づき、あせったが何とかひでさんはFIXを終え、降りてくる。空中に引っ張られるため、プロテクションの回収も大変そうだった。お疲れ様です。これで、ラスボスは倒した。あとはチンカスみたいなピッチだけだぜ。結局毎日夜間まで行動している…。

7/28
昨日のFIXをユマーリングし、登攀開始。手指が痛すぎる。背後に広がる景色を眺めながらの空中ユマーリングはまるで空を飛んでるようだ…。


上から見たCAMPⅥ


チェンジングコーナーズ こんなもん人間が登れるのか…

28P目:高橋
綺麗なフィンガークラック

29P目:赤澤
長い。C2と書いてあるが残置が多いので楽に行けた。ルーフなのでプロテクションを多めに取って行く。

30P目:赤澤
ボルトラダーの根本まで。短いピッチ
31P目:赤澤
最終ピッチ。ひでさんがやっていいよと言ってくれたのでありがたくリードさせていただく。もうビッグウォールも終わりかと思うと何だか寂しい気がする。かと言ってもう一回ビバークするのはごめんだ。

ルーフを越えて右にトラバースし、5.5のフェイスを登り、TOPOUT。そしてフォローのひでさん、そしてホールバックも到着。2人で完登を喜び合った。サラテを制した時ほどの感激には及ばないが、やはりビッグウォールを登りきった瞬間は最高だ!二人で「やったぞー!!」と叫んだ。

平らなところまで荷物を運び、ガチャをはずし、ぼーっとする。水は3Lくらい余っていたが、下山のことを考えればちょうどよい量だった。前回のように浴びるほどは残らなかった。パッキングし直すが、うんこが臭すぎて吐くかと思った。持ち帰る僕らはクライマーの鏡だぜ。記念写真を撮り、ダラダラ整理し、帰りの道を歩き始める。

それが、悪夢の始まりだとも知らずに…。三時間くらいで下山だろうと思いつつずーっと下り、ようやく標識のある分岐まで到着。そこにはこう書いてあった“YOSEMITE VALLEY 13.3   EL CAPITAN 5.5”………?何で、ヨセミテまであと13.3マイルもあるんだ?何かの間違いだろということで、さらに道を行くが、荒れた道で明らかに人があまり通っていないようだ。標識を見た時点で薄々感じてた事を僕はひでさんに告白する。「エルキャプの頂上の時点で正反対に歩いてきちゃったんじゃないすかね…」二人はその受け入れがたい事実を数分の絶望を経て受容し、再びエルキャプの頂上に向けて歩き始めた。「今からスタートしたと思えばいいじゃん!あと13.3マイル、さぁ出発!」とポジティブに考える。ちなみに1マイルは1.6キロである。肩がもげそうになりつつも夜の八時にようやくエルキャプに戻ってくる。「エルキャプの頂上に泊まれるなんて最高だぜ!」と言いながら、飯を食い、満天の星空を眺めながら就寝。
7/29
朝ゆっくり起きて、正しい道を下り始める。体はボロボロだ。

大量の蚊と永遠に思える下り坂を乗り切り、昼ごろにCAMP4に到着。即行うんこをゴミ箱にぶち込む。キヨスクで一晩だけ予約を取り、車を取りに行く。このとき乗ったバスの運転手のおばさんはあの平山ユージを乗せた人らしく、僕らが日本人でノーズを登ったことを知るとテンションが激上がりして、「ユージはすごいわ!!」みたいなことを喋り捲っていた。後で調べて分かったことだが、ユージはハンス・フローリンと7月4日にノーズを登っており、2時間43分23秒という新記録を樹立していたらしい。もう少し後で登ってくれれば会えたのに!
車をゲットし、シャワーを浴びて生まれ変わり、ビールと飯を食らう。至福の時だ。夕食はヨセミテロッジのバー。ビールが最高にうまい。The NOSEというカクテルがあったので頼む。俺らこれ登ったぜ、とウエイターのおばさんに言うと、冗談やめてよとばかりに笑っていたのでボロボロの手を見せ付けてやった。その後、“The Bears”というBear expertを名乗るおじいさんが解説するムービーを広場で見てCAMP4に帰り、寝る。

7/30
いやぁー、よく寝た!朝飯をロッジで食べて、CAMP4を出て、お土産を買う。夕方にサンフランシスコへ出発する予定だ。当初はノーズを登ったら、ハーフドームのスネークダイクを登る予定だったが、手がパンパンなので無理である。暇な時間をダヴィンチコードを読んで過ごし、いざ帰路に着く。これでもうヨセミテとは今生の別れになるだろう。たくさんの思い出をありがとう。グッバイヨセミテバレー!

おしまい